前払式支払手段発行者のWEB弁護士相談

2. 自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段の違い

前払式支払手段は、利用できるお店の範囲によって、自家型と第三者型の2種類に分けられます。
自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段の違いによって、資金決済法の適用がどのように異なるかを説明します。

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    相談者

    自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段の違いがよく分かりません。

    永井弁護士

    自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段の定義は、それぞれ資金決済法第3条第4項、第5項に定められています。
    両者の定義の要点を説明します。
    自家型前払式支払手段とは、前払式支払手段の発行者からの商品やサービスの購入のみに使用できる前払式支払手段のことです。発行者のほか、発行者の「密接関係者」でのみ使用できる場合も、自家型前払式支払手段に当たります。(資金決済法3条4項)

    図表B-2-1

    例えば、自社が運営する店舗のみで使える回数券やギフトカードが自家型前払式支払手段に当たります。
    自家型となるためには、前払式支払手段の発行者と、前払式支払手段を利用できる商品やサービスを提供する事業者とが一致していることが条件です。

    次に、第三者型前払式支払手段とは、発行者以外の店舗やサービス提供者での代金支払いにも使用することができる前払式支払手段のことです。資金決済法では、自家型前払式支払手段以外の前払式支払手段と定められています。(資金決済法3条5項)

    図表B-2-2

    例えば、大手鉄道会社が発行するICカードは、電車に乗る際に支払う運賃のみならず、コンビニエンスストアや飲食店での代金支払いに使うことができますよね。ICカード、スマートフォンアプリなどで多くの人にさまざまな場面で利用されている電子マネーは、第三者型前払式支払手段に当たるものが多いです。

    相談者

    自家型前払式支払手段と第三者型前払式支払手段とで、発行のために必要な手続に違いがあるのでしょうか。

    永井弁護士

    第三者型前払式支払手段を発行するには、発行を開始する前に、財務局の登録を受けなければなりません。(資金決済法7条)

    これに対し、自家型前払式支払手段を発行するために事前に行う必要のある手続きは特にありません。ただし、発行後に一定の条件を満たした場合には、自家型発行者として財務局に届出を行う必要があります。(資金決済法5条)

    財務局への届出が必要となる条件とは、発行する前払式支払手段の未使用残高が基準額である10,000,000円(1,000万円)を超えることとなることです。(資金決済法第5条第1項、第14条第1項)
    年2回、3月31日と9月30日が基準日とされており、このどちらかの時点で未使用残高が10,000,000円を超えた場合には、その後2か月を経過する日までに、財務局に自家型発行者となることの届出を行わなければなりません。

    自家型前払式支払手段の発行後に未使用残高の管理がおろそかになると、基準日の未使用残高が10,000,000円を超えていることの意味に気づかず、自家型発行者となることの届出を失念する事態ともなりかねませんので、気をつけるようにしててくださいね。

    相談者

    自社だけでなく、自社の関係先や提携先で使える前払式支払手段を発行したいです。
    別法人での買物やサービスに使えると、それだけで第三者型前払式支払手段になってしまうのでしょうか。

    永井弁護士

    いいえ、そうとは限りません。
    前払式支払手段が使えるお店との関係によっては、自家型前払式支払手段として取り扱うことができることもありますよ。

    自家型前払式支払手段として取り扱うことができるのは、利用可能な店舗が発行者と「密接な関係を有する者」(密接関係者)である場合です。具体的には、発行者と店舗とが次のような関係がある場合に、「密接な関係を有する者」にあたります。

    • a. 両者とも個人で、親族(※)関係である場合
      ※6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族(民法第725条)
    • b. 両社とも法人で、親子会社である場合
    • c. 一方が個人、一方が法人で、個人が法人の株主の議決権の過半数を保有する場合
    • d. 両社とも法人で、兄弟会社である場合
    • e. 店舗が行う商品販売、サービス提供などが発行者が行うこれらの活動と密接不可分なものであり、かつ同時にまたは連続して行われる場合

    (資金決済法施行令3条1項参照)


    例えば、親会社が発行する前払式支払手段を利用して、50%超の株式を保有する子会社でも買い物ができるという場合は、bに当たります。この場合は、「密接な関係を有する者」でのみ使用できる自家型前払式支払手段と位置付けることができますので、第三者型発行者としての登録を受ける必要はありません。

    ただし、資本関係がない場合は、「密接な関係を有する者」に当たるための条件を慎重に検討する必要があります。
    上記eのとおり、

    • o 商品販売やサービス提供が「密接不可分」であること
    • o 「同時」または「連続」して商品販売やサービス提供が行われること

    が「密接な関係を有する者」に当たるための条件だからです。発行者と店舗との間で業務提携契約を締結しているだけでは、「密接な関係を有する者」には当たりませんので、気をつけてくださいね。

    #2021年5月1日に施行されている法令等をもとに執筆されています。同日以降の改正の有無については、個別にお問い合わせください。

    執筆者紹介

    弁護士 永井利幸(永井法律事務所 代表弁護士)

    2010年弁護士登録。 金融機関、IT・Webサービス企業、不動産会社などを依頼企業として企業法務案件に継続的に関与しています。 企業のご担当者からの初回のご相談は60分無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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