前払式支払手段発行者のWEB弁護士相談

1.前払式支払手段とは(定義、適用除外)

割引券、回数券、クーポン、チケット、ポイントなどは、資金決済法で定められている定義や適用除外のルールを理解しておかないと、思いがけず前払式支払手段に当たってしまうことがあります。
有効期間を6ヶ月の期間内(6ヶ月以内、180日、半年)とすることにより適用除外と整理する手法も紹介します。

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    「前払式支払手段」とは何ですか?日常生活では耳慣れない言葉ですが…。

    前払式支払手段とは、商品券・ギフト券、旅行券、プリペイドカード・ギフトカード、電子マネーなど、利用者から前払いされた対価をもとに発行される有価証券のことです。
    次の3要件を満たす証票や、番号、記号などの符号が前払式支払手段に該当することになります。

    (1) 価値保存性
    金額等の財産的価値が券面に記載されているか、ICチップ・サーバなどに記録されていること。
    (2) 権利行使性
    物品購入、役務提供などの場合に、代価の弁済のために利用されること。
    (3) 対価性
    記載または記録されている金額(○円)や数量(例:お米○kg)に応じた対価を得て発行されるものであること。

    (資金決済法(資金決済に関する法律)3条1項)

    電子マネーと同じように、色々なお店で使えるポイント(企業ポイント・共通ポイント)がありますよね。
    ポイントも「前払式支払手段」に当たるのでしょうか?

    無償で発行されるポイントは、前払式支払手段に該当しません。
    対価を得て発行されるものではなく、先ほどの定義のうち、(3)の対価性要件が欠けるからです。

    ただし、他の前払式支払手段からの交換で入手できるポイントは、交換元の前払式支払手段経由で対価性を持つと評価され、前払式支払手段に当たってしまいます。
    自社で発行するポイントをポイント交換サービスに参加させる際は、交換元となるポイントに前払式支払手段が含まれないかどうかに注意して確認すると良いですよ。

    また、ポイントのほかにも、会員権などの証書は、前払式支払手段に当たりません。
    例えば、ゴルフ会員権などの会員権を買うと、会員であることを証明する証書が発行されますよね。
    この証書は、証拠証券であり、(1)価値保存性や(2)権利行使性が欠けると考えられています。

    そのほか、前払式支払手段に当たらないものの例としては、次のようなものがあります。

    a. 日銀券(現金)、収入印紙、郵便切手、証紙
    法律によってそれ自体が価値物としての効力を認められることを理由に、(3)の対価性要件を満たさないと考えられています。
    b. 会員権の証書
    物品購入、役務提供などの場合に、代価の弁済のために利用されること。
    c. トレーディング・スタンプ
    商行為として購入する者への販売であり、当該業者が消費者への転売を予定していないことを理由に、実質的に(3)の対価性に欠けると考えられています。
    d. POS型カード(ATMで利用するキャッシュカード)
    ATMにおける本人確認機能として利用されるカードであり、価値保存性、対価性が欠けると考えられています。
    e. 本人であることを確認する手段として発行されるカード、番号など
    それ自体には価値が存在せず、財産的価値と結びつきががないため、(1)の価値保存性が欠けると考えられています。

    (参照:金融庁事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係 5.前払式支払手段発行者関係 本文I-1-1)

    有効期間を6か月未満にすれば、資金決済法の規制を受けないと聞きましたが、本当ですか?

    はい。そのとおりです。
    「発行の日から6月内に限り使用できる前払式支払手段」は、資金決済法の規制の適用除外とされています。(資金決済法4条2号、資金決済に関する法律施行令4条2項)

    つまり、前払式支払手段の有効期間を6か月よりも短い期間に設定しておくことで、財務局への届出・登録や、発行保証金の供託などのルールによる制約を受けることなく、前払式支払手段を発行することができるのです。
    実際に、オンラインゲーム内で使用できる仮想通貨や、小規模の有償クーポンの発行では、有効期間が短く設定されることがよくあります。

    ただし、有効期間が短いということは、利用者から見れば、すぐ使わなければならないということを意味します。
    つまり、利用者にとっては使いにくい、不便な前払式支払手段ということになります。
    6か月以内の有効期間とするのが本当に良いかどうかは、資金決済法の適用を受けることとのメリット・デメリットを踏まえたうえで、十分に検討してください。

    なお、資金決済法の適用との関係では、6か月の有効期間が確実に遵守されることも重要です。
    「発行の日」が正しく管理されていなかったり、使用期間経過後も事実上使用できるような運用になっていたりすると、適用除外の要件を満たさなくなってしまいます。
    有効期間に従った使用が厳守されるような社内運用を徹底するようにしましょう。

    有効期間が6ヶ月未満の前払式支払手段以外にも、前払式支払手段の適用除外となるものはありますか。

    適用除外となる前払式支払手段の一覧は、次のとおりです。

    • i. 乗車券、入場券その他これらに準ずるものであって、政令で定めるもの
      (例)映画館の入場券、施設利用者が通常使用する施設の食券
    • ii. 発行の日から6月内に限り使用できる前払式支払手段
    • iii. 国又は地方公共団体が発行する前払式支払手段
    • iv. 自動車技術総合機構、日本中央競馬会及び日本放送協会、港務局及び地方道路公社が発行する前払式支払手段
    • v. 専ら発行する者(密接関係者を含む。)の従業員に対して発行される自家型前払式支払手段(専ら当該従業員が使用することとされているものに限る。)その他これに類するものとして政令で定める前払式支払手段
      (例)従業員向けに発行する、自社の食堂でのみ使用できるプリペイドカード
    • vi. 割賦販売法(昭和三十六年法律第百五十九号)その他の法律の規定に基づき前受金の保全のための措置が講じられている取引に係る前払式支払手段として政令で定めるもの
      (例)友の会が前払式特定取引として発行する買物券、旅行業務において発行されるクーポン
    • vii. その利用者のために商行為となる取引においてのみ使用することとされている前払式支払手段

    (資金決済法4条、資金決済法施行令4条、前払式支払手段に関する府令6条、7条、8条)

    #2021年5月1日に施行されている法令等をもとに執筆されています。同日以降の改正の有無については、個別にお問い合わせください。

    執筆者紹介

    弁護士 永井利幸(永井法律事務所 代表弁護士)

    2010年弁護士登録。 金融機関、IT・Webサービス企業、不動産会社などを依頼企業として企業法務案件に継続的に関与しています。 企業のご担当者からの初回のご相談は60分無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

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